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【論文公表】がん特異的抗体を使ったキメラ抗原受容体の作製に成功ー正常組織を傷害する副作用の軽減に期待ー


2025年1月5日

 三嶋 雄太 助教(筑波大学)、岡田 晋太郎(京都大学医学部人間健康科学科 元大学院生)、加藤 幸成 教授(東北大学大学院医学系研究科 抗体創薬学分野)、金子 新 教授(京都大学大学院医学研究科 免疫再生治療医学分野)らによる研究グループは、様々な癌腫で発現するポドカリキシン(PODXL)*1 に対応するキメラ抗原受容体(CAR)*2 の開発に成功しました。PODXLは正常組織にも発現が認められますが、今回作製したがん特異的モノクローナル抗体(CasMab *3)から作製したPcMab-6由来CARは非がん特異的抗体由来のCARと比較して正常組織に対するオフターゲット効果*4 を低減することが分かりました。この研究成果は2025年1月5日(日本時間)に「Regenerative Therapy」で公開されました。

  • 論文表題:Development of chimeric antigen receptor T cells targeting cancer expressing podocalyxin.
  • 筆頭著者:三嶋 雄太、岡田 晋太郎
  • 責任著者:金子 新
  • 掲載雑誌:Regenerative Therapy
  • 発表期日:2025年1月5日
  • DOI:10.1016/j.reth.2024.12.010

*1 ポドカリキシン :

Podoclyxin (PODXL, PCLP)。腎臓や臓器の膜を構成する細胞が作り出している分子で、体内の重要なタンパク質などが過剰に排出されないように保つ働きをしています。幅広くさまざまながん細胞では、このポドカリキシンを作り出す作用が異常に活性化しており、がん細胞表面にはたくさんのポドカリキシンが存在するという特徴があります。

*2 キメラ抗原受容体 :

Chimeric antigen receptor (CAR)。Tリンパ球が攻撃する異物を見分けるセンサー (T細胞受容体:TCR) の構造をベースに、センサー分子が異物を認識する部分(エピトープ)を、がん細胞マーカーなどの望んだターゲットを認識するように人工的に作り変えたもの。CARを作り出す遺伝子を細胞に導入すると、その細胞の表面上にCARが出現し、ターゲットを見つけ出してはさまざまな免疫反応を起こすようになります。現在では、CARをがん患者様のTリンパ球に導入 (CAR-T細胞)して、患者様の体内に戻して、がんを駆逐するCAR-T細胞療法が薬事承認され、各地の専門病院で実際に治療法として用いられています。

*3 CasMab技術 :

東北大学 加藤幸成教授が開発した新技術。健全な細胞にも存在する分子であっても、がん細胞上では通常とりえない異常な構造になっていることがありますが、このがん細胞上での異常な構造だけを認識する免疫抗体 (Cancer-specific-Monoclonal-antibody; CasMab) を作製する技術です。免疫抗体を作り出すBリンパ球は、成熟していくなかで1細胞1種類の抗体だけを作り出せようになるので、有用な抗体を作り出せる成熟B細胞を選別して再度増やせば(クローン化)、有用な免疫抗体を大量に得ることができます。この様な抗体を、モノクローナル抗体と言います。

*4 オフターゲット効果:

がん細胞によく発現する分子Aをターゲットにしたとき、人体の健全な細胞も分子Aを持っていると、その健全な細胞にも攻撃のターゲットが向いてしまい(オフターゲット)、健康が損なわれ、重篤な副作用につながります。この現象をオフターゲット効果あるいは、on-target-off-tumor毒性と呼びます。ポドカリキシンは、腎臓や臓器の膜、一部の血管などにも存在しているため、CasMab技術を使用しない場合、これらの組織にもオフターゲットが生じてしまうと考えられます。