研究室案内

教授挨拶Greetings from Professor

 京都大学iPS細胞研究所 金子新研究室公式webサイトにご訪問いただき、ありがとうございます。2007年、留学先のミラノでヒトiPS細胞発見の報に触れた私は、その直後からiPS細胞を介して抗原特異的Tリンパ球をはじめとする様々な免疫細胞を再生する研究と、それらを駆使した新しい医療の開発を始めました。2008年からは恩師・中内啓光先生の研究室(東京大学医科学研究所 幹細胞治療部門)で、そして2012年9月からはiPS細胞発祥の地である京都に研究室を構え、現在に至っています。
 私たちの体内には様々な役割の免疫細胞が存在し、極めて巧妙なネットワークを形成して、微生物などの”外敵”や、がん細胞などの”内なる敵”との戦いを日夜繰り広げています。免疫関連疾患は、この免疫システムの不全や破綻により発症します。これに対し、以前よりワクチン療法などによる免疫システムの補強が試みられてきましたが、その応用は感染症(外敵)を中心とした予防医療にとどまっていました。一方、近年、免疫細胞の生物学的理解と遺伝子工学技術が進んだ結果、がん細胞や異常をきたした免疫細胞など(内敵)に対抗する真に有用な免疫治療がいくつも登場しています。私たちは、iPS細胞を中心に据えたアプローチで、それら成果をさらに推し進めるべく、新しい免疫再生の技術開発と免疫再生治療の臨床応用に取組んでいます。
 幸い多くの志ある研究員、大学院生、技術スタッフ、支援スタッフに恵まれて基礎研究は順調に進んでおり、数多くの免疫再生論文が注目度の高い国際学術雑誌に掲載されるに至っております。臨床応用に関しても、国の支援や医療機関、民間企業との共同研究を通じて複数のパイプライン開発に取組んでおり、一部は国内臨床試験実施にも至っています。また、これら活動に対して様々な形で継続的なご支援もいただいております。この場を借りて、研究開発にご尽力ならびにご支援いただいている皆様に心から御礼申し上げます。
 さて、私達は研究室設立時から一つの理念を持っています。それは免疫再生治療の普及や免疫再生技術の発展のために、多くのステークホルダーの皆様の力を結集する技術的学際的ハブになることです。この理念を十年以上貫き続けた結果が、研究機関や民間企業との国籍・規模・分野を問わない数多の共同研究であり、その成果は臨床試験推進や論文発表、知財取得、技術導出、大学発スタートアップ企業設立などに現れています。特に共同研究の多彩さは私たちの研究室の自慢であり、医学研究や創薬研究はもちろんのこと流通、宇宙、芸術といった領域にまで範囲を拡げております。
 本webサイトでは、当研究室の日々の活動や成果、そして研究活動を支えるスタッフの素顔などをご覧になれます。ご興味を持っていただけましたら、ぜひお声掛けください。「どんなときでも楽しく研究」のモットーの下、一緒に研究開発に取り組んでくださる方々、研究活動を応援してくださる方々、研究成果を心待ちにしてくださる方々、そのような皆様の存在が私たちの推進力となります。私たちの活動が、全ての患者様とご関心をお持ちの皆様にとり、未来を照らす光となれるよう、誠心誠意努めてまいります。
 それではどうぞ、京都大学iPS細胞研究所 金子新研究室webサイトをお楽しみください。

令和7年4月1日
京都大学iPS細胞研究所 免疫再生治療学 教授 金子新
iPS細胞研究所 教授 金子 新

研究所概要Institute Overview

01 iPS細胞からのヒト免疫細胞再生研究

京都大学iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 金子新研究室では、臨床用ヒトiPS細胞を用いたヒト免疫細胞再生医療に関する研究を行っています。
概要は以下の動画を御覧下さい。

02 iPS免疫細胞・免疫再生による
疾患の制圧を目指す

 当研究室では、iPS細胞の特性を生かした免疫再生治療の実現に向けた研究を行っています。中心的には、Tリンパ球に焦点を当て、iPS細胞からの再生・活用手法を開発しています。
 Tリンパ球は標的細胞を認識し攻撃する免疫機能を担っています。多くの細胞機能は、遺伝子配列をそのままにそのon/offが切替えられますが、Tリンパ球が標的抗原を認識するT細胞受容体(TCR)は、Tリンパ球の遺伝子配列そのものが組み変わるため、Tリンパ球は1個につき1種類のTCRしか持ちません。このTCR遺伝子は初期化しても保存されること(T-iPS細胞)を利用し、抗原特異的なT細胞を大量に再分化誘導する手法を確立しました(2013-3, 2021-5)。この技術を臨床応用するため、HLAホモドナー由来iPS細胞に疾患特異的TCR遺伝子を導入し、様々な患者に対応できる抗原特異的Tリンパ球を製造することに成功しました(2018-2)。
 さらに、製造工程の改良や動物由来成分を含まない環境での培養、キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子の導入などを組み合わせ、iPS細胞由来のCAR-Tリンパ球を複数の患者に供給できる可能性を示しました(2021-1,2021-7,2023-1)。加えて、iPS細胞の免疫原性を低減させる手法を用い、少数のiPS細胞で多様なTリンパ球を製造する可能性も示されています(2019-9,2021-6)。
 これらの研究成果は一部が企業に導出され、臨床開発が進んでいます。当研究室では、他のリンパ球サブセット(2016-4)や、Tリンパ球に限らず、NK細胞(2018-5,2020-3)やマクロファージ(2018-3,2021-4)など他の免疫細胞の再生法も研究し、がんや感染症、自己免疫疾患、移植医療など様々な治療に貢献できる可能性を模索しています。これらの研究を通じて、再生医療の実現化と治療成績の向上に寄与することを目指しています。

※(西暦-番号)は、研究活動ページの論文業績と対応しています。

03 臨床応用を目指した、
抗原特異的キラーT細胞の再生

金子研の研究は、教授:金子新が、東京大学医科学研究所・幹細胞治療分野(中内啓光教授)在職中にHIV感染症患者様からHIV抗原に特異的なキラーT細胞をクローン化してiPS細胞を樹立し、そしてそのiPS細胞から再びHIV抗原特異的なキラーT細胞を大量作製することに成功した研究に始まります(2013-3)。再生したT細胞は、AIDSの原因ウイルス抗原ペプチドをHLA分子上に提示した細胞を特異的に傷害し、また、再生したT細胞のテロメアは元のT細胞より長くなっていました。これは、患者様のT細胞が治療に有用な細胞に若返ったことを示しています(2013-3)。この成果を早期の臨床応用に結びつけるべく、当研究室では様々な腫瘍抗原やウイルス抗原に特異的なキラーT細胞クローンからiPS細胞を樹立し、そこから再分化誘導したキラーT細胞の治療効果を高める研究を行っています。


免疫再生治療(Regenerative immunotherapy)の概念図
疲弊した抗原特異的なT細胞をiPS細胞を介して再生し治療に用いる。

本研究が掲載されたCell Stem Cell誌の2013年1月号の表紙
右上:テロメアを表すロウソクが短くなり、弓を下ろした老女
中央:ロウソクは長くなり、若返って再び弓を構える女性
着物には日本語で「T細胞」の文字が。
なお、和服で弓を引く際は、襷を捌き、長髪は左または後ろでまとめましょう。

共同研究についてJoint Research